溺れる唇

見上げると、
いつもどこか微笑っているような目が、
これ以上無いほどに見開かれるのが
スローモーションのように見えた。

泣き濡れた顔をみっともなく晒して、
しっかりと抱き抱えられた腕にすがる。


安心できる場所。

いつでも私を見守ってくれる、
優しい声。


「笠井さん・・・」


かすれ声を発すると同時に
歪んだ私の視界は、
力強く抱き寄せられた胸の中で
暗転した。


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