溺れる唇
「・・・うん。ごめん」
裕馬は恥ずかしそうにつぶやき、
そそくさと資料をかき集めて
立ち上がった。
足元に残った数枚を拾い上げ、
高い位置にある赤い顔を見上げた
私は、静かに返す。
「私も驚いた。同じ会社にいたなんて」
「ああ、俺、中途採用なんだ」
「そうなの?」
道理で、入社式にはいなかったはずだ。
「入った時に社内報とかには載った
みたいだけど、本社勤務じゃなかったし。
それに、翔子はそういうの、こまめに
見るタイプじゃないだろ?」
「悪かったわね」
よく見知った者同士の軽口。
懐かしさに、眩暈がしそうな感覚に陥る。