溺れる唇

かあっと血が上る勢いのままに続けよう
とした所で、戸口に立つ人影。

「はーい、海鮮粥おまたせしましたー」

ほかほかと美味しそうな湯気の上がる器が
テーブルに置かれ、お店の人が去っていく。

小さな座敷に訪れる、静けさ。

「遊んでなんかいない」

ランチ時のざわめきが、
膜を張ったように聞こえる中で、
笠井さんの真面目な声が届いた。

「だけど、俺は
多分・・・欲張りなんだろうな」


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