溺れる唇

「あんまり・・・・・
・・・甘やかさないで下さい」

潤みそうな目頭に力を入れて、
役目を終えた部屋の鍵を差し出す。

「クセになったら困るから」

色っぽい目を柔らかく細め、
笠井さんは優しい苦笑を浮かべた。

「俺はいつでもかまわないよ」

誘うように甘く囁く笠井さんの手の中で
カチャリ、と鍵が音を立てた瞬間。

「・・・・・翔子・・?」

思っても見なかった声が、
横合いから飛び込んで来た。


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