溺れる唇

振り返ると、思った通りの長い人影。

私を見て浮かんだ困ったような顔色は、
隣に立つ笠井さんを見留めると、
サッと棘のある色に変わった。

「おつかれ、これからランチ?」

その顔色に気がつかないはずはない
だろうに、のんびりと言う笠井さんに
視線を向けた裕馬は口を開きかけ、
動きを止める。

「・・・・・翔子」

私の名を呼びながらも、
裕馬の視線は私の隣に向けられている。


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