溺れる唇

髪に触れるのを払おうとした手を、
きゅっと握られる。

「まあ、ベッド提供するくらい、
いつでもかまわないけど」
「笠井さん!」

いじわるすぎる一言にたまりかねて
声を上げると、
ザッと靴底が地面を擦る音がした。

正面に向き直ると、
背を向けて去って行く裕馬の後姿。


「あ・・・」


去って行く背中に、
泣きそうな想いがこみ上げた。


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