溺れる唇

茫然と濃紺のスーツが消えた角を
見つめ続ける私の方に、
ポン、と温かい手が置かれた。

「行けよ」



「でも・・・」


ゆらゆらと揺れ始めた私の視界に、
笠井さんが入りこんで来る。

「あいつ、俺をぶん殴りそうな勢いで
睨んでた。昔はどうか知らないけど、
今はきっと・・・」


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