溺れる唇

私は、恋する男の顔を両手で
しっかりと固定した。


「ねえ。こうして、
ちゃんと私を見ててよ?」


唇を尖らせて、拗ねたように言う、
私の、精一杯のワガママ。


一瞬、驚いたような表情をした後、
裕馬は、あはは、と空を仰いで笑うと、
ぎゅっと私を抱きしめた。

「もちろん」

返って来た答えに満足した私は、
裕馬の頬から肩へと手を伸ばす。


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