溺れる唇

別々の時間を過ごして来た私達が、
こうして唇を重ねていられるのは
いくつもの偶然のおかげ。


あの時、
私が電話を無視し続けていたら。

残業せずにすむ部署にいたなら。


もしくは、同じように再会しても
どちらかに、恋人や夫、
もしくは、妻がいたなら。


私達は、久しぶり、などと、
ごく簡単に言葉を交わすだけで、
きっと、触れ合うことなどなかった。


そして、その久しぶりの再会も、
忘れられないキスの思い出と共に、
そっと心の奥にしまったことだろう。


私は・・・多分、裕馬も。


< 323 / 344 >

この作品をシェア

pagetop