溺れる唇
「いや、気のせいだったみたいだ」
「そうなの?」
「たまにない?鍵閉めたかとか、
テレビ消し忘れたんじゃないかとか、
出かけてから気になること」
「・・・あんまり無いわ」
答えて、翔子はさも面白そうに
くすくす笑う。
「裕馬って意外とそそっかしいものね。
この間も・・・」
くくくく、と口を押さえて笑う先は
前回会った時のことだと、
すぐに察しがついた。
「その話は言わない約束だったよな?」
「いいじゃない。2人なんだし」
「近くに誰か知り合いがいるかも
しれないだろ」
何を根拠にかわからないけれど、
いないわよ、と笑う翔子の後ろに
目をやり、俺はあ!と驚きの顔を作る。
「えっ?!」