溺れる唇
「なんで1人で帰ろうとしてんの?」
「え?」
言われた意味がわからなくて、
“?”を浮かべる。
「いやいやいや」
「え?」
いやいや、と言われても、わからない。
「なにそれ、本気?」
「うん。なに?まだ何か・・・」
「イタリアンだろ?“すんごく高い”
のは無理だけど、おごるよ。お礼に。」
にっこり笑った顔に、黄色の信号が
点滅した。
揺らぎそうな、予感。
私は掴まれたバッグを、離さないように
ぎゅっと握った。