溺れる唇

自らの思考に突っ込んだ私は、
がっくりと項垂れた。

棚にもたれかかった拍子に、揺らされた
金属製の部品棚がガシャンと大きな音を
立てる。

「おおっと」
「翔子先輩?!」

びっくりして思わず出してしまった声は、
デスクの方まで聞こえてしまったらしい。

「沢田?!大丈夫か?」

藤原さんの声と一緒に身軽な足音が
カンカンカン、と階段を上って来た。

「翔子先輩、大丈夫ですか?」
「芳賀くん」

部品棚に掴まっている私に駆け寄って来る
痩せ型の、若い男の子。

今年の春、ウチに来た、
新入社員の芳賀東吾くんだ。



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