溺れる唇
電話が鳴っている。
今夜3回目になる
内線の呼び出し音。
誰もいない部屋で1人、
パソコンに向かっていた私は、
キーを打つ手を止め、
壁に掛けられた味気ない時計に
目をやった。
PM 8:53
入社6年目ともなると、
時間外の内線にオロオロするような
初々しさは無くなるものだ。
無駄な手間はできるだけ省いて、
さっさと終わらせたい。
もうとっくに退社時間を過ぎている今、
かかってくる電話を無視しても、
私の上司はきっと咎めないはずだった。