溺れる唇
「・・・それ以上言うと行かないわよ」
「・・・・・すみません」
悪いなんて、爪の先程も思ってない顔で
裕馬は言い、階段へ曲がった私を見た。
「翔子も階段なんだ」
「“も”?」
「俺も階段で来たから。エレベーター、
来るの待ってる間に着くもんな」
理由は違うけど。
ゆっくりと1段おきに登る裕馬の
長い足を見ながら、私は思う。
「そうね」
そのくらい足が長ければ、階段も
楽に登り下りできるでしょうね、と。
こうして並んで歩くのが普通だった
学生の頃。
一緒に階段を上る度に息を切らしながら、
私は思ったものだった。