溺れる唇

満腹なせいか、私が意識してしまった
せいか、帰りはそんなに話もしない内に
会社に着いてしまって。

階段を下り、薄暗い廊下を歩いていたら、
なんだか、お礼を言わなくちゃと思った。

「今日は、ありがとう」
「行って、良かったろ?」
「まあ、ね」

確かに、あの店は本当に良かった。

会社から近いのもいい。

ランチはもちろんだけど、
夜のメニューも気になる。


今度、夜にも行ってみようかな。


そう思ってから、昨日の店の様子を思い
出し、私はちょっと寂しい気持ちになる。

グラスを傾けていた見知らぬ恋人達。



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