溺れる唇

ドアノブに手をかけ、こちらを向いた
裕馬に、はっ!と気づいた私は、
握った拳で唇をかばい、後ろに
跳び退いた拍子に壁に激突した。

「うっ!」

したたかに背中を打ち付けて息が
詰まり、うずくまってしまうバカな私。

「大丈夫?」

助けおこそうとする裕馬をキッと
睨みつけ、私はきっぱりと言い切った。

「大丈夫よっ!」

突き飛ばす勢いで立ち上がったのを、
ひょい、とかわされる。

「おっと」



< 93 / 344 >

この作品をシェア

pagetop