10日間のキセキ
窓越しに視線が会うと、
“出れる?”と浮かれた口調が、再び携帯から聞こえてきた。
時計をみると、もう0時をまわっている。
お風呂にも入ってしまって、髪は無造作にひとまとめだし、
ノーメイク&くつろぎウエアの状態だ。
『でも、アタシ…』
そう言いながらも、ウエアのボタンをはずしていた。
頭では、何を着ていこうか、寒いかな、と考えていた。
“オレ、待てるよ。待ってるよ。”
『・・・わかった、待ってて。』
心の中の葛藤とは裏腹に
何故だかあたしは、そう、その声に答えていた。
(これでいいや、)
鹿の子のポロワンピを被って、パーカーを羽織る。
簡単メイクをして、
財布に万札を一枚押し込んだ。
玄関に向かう途中のリビングから笑い声が聞こえてくる。
テレビでも観ているのかな、受験生のくせに。
『悠斗、ちょっと出掛けてくるから。』
ドアを少し開けて、声を掛けた。
案の定、弟の悠斗は夜食を頬張りながらバカ笑いをしている。
「ふぇ?今から?」
『うん。』
「誰か来てんの?」
『ん、まぁね。パパとママは?』
「明日早いからって、もう寝たみたいだぜ。」
そうだ、お姉ちゃんたちと田舎に行くんだった。
早朝出るって言ってたっけ。
『そ、じゃあ行って来る。』
「へぇ、男か?」
『うん・・と、』
返事を濁すも「ふ~ん。」とたいして興味もなさそうに答える悠斗にちょっと安心する。
詮索されるのも面倒だと思っていた。
もう、お笑い番組に視線は戻っている。
『チェーン掛けないでね。』
それだけ言って、玄関に向かいドアノブに手を掛ける。
ゆっくりと静かに扉を閉めて、ふ~っと息を吐いた。