10日間のキセキ
エレベーターを降り、エントランスから側道へまわる。
拓也は、車に体を預け、携帯をいじっていた。
髪が伸びていた。少し痩せたようにみえる。
あたしの姿に気づくと、上半身をはねあげてニッコリと笑顔を向けた。
一年振りに面と向かったあたしへの第一声は、
「久しぶり」でも「会いたかった」でもなく、「ドライブに行こう」だった。
「乗って?」
助手席側のドアを開け、拓也はいそいそと運転席に乗りエンジンをかけた。
首を傾げたくなる。
彼の意図が全くわからない。
なぜ今になって、あたしのところにに来たんだろう。
あたしが断るという選択肢は、彼の中には無いらしい。
仕方なしに助手席に乗り込んだ。
車は何棟も立ち並ぶマンション街を抜けて、国道方面へ向かって走り出す。
拓也の横顔は、心なしか口元を緩めているように見えた。
『こっちに来てたんだ。』
敢えて、『戻ってきたんだ。』とは言わなかった。
「ああ、今朝の飛行機でね。
コイツがさ、今日、納車だったからさ。」
嬉しそうにハンドルをポンと叩く。
この車は知ってる。
何年か前に流行ったモデルだ。
赤いRV車・・あたしが気に入ってた車種だ。
「この色、やっぱりいい色だよなぁ・・
派手じゃない、渋くて落ち着いた赤だよな。
真奈、この色のがイイって言ってただろ?
ちょうど買い換えようって思ってたら、こっちの知り合いの店にあってさ、即決めしちゃったよ。
だから、一番に見せたかったんだ。
地デジナビもETCも付いてるんだぜ。」
得意満面な顔で話し始める。