10日間のキセキ
ドンと背中が壁にあたる。
彼のもう片方の手が、あたしの首筋に触れた瞬間、
『ん・・・』
息ができなくなった。
あまりにも突然で、避けることさえできなかった。
(キス?されてる?)
意識したとたん、心臓が鷲掴みされたように痛みだす。
ドクンドクンと血液が頭に昇っていく。
顔が熱い・・足のチカラが抜けそう。
そして、目頭がジーンとしてきた――
『…ウッ…』
「えー?あ、ご、ごめん!」
ようやく離れた唇。
ものすごく近くに拓也の驚いた顔がある。
『なっ…』
なんで?というつもりだったのに言葉が出てこない。
かわりに涙がポタポタと落ちていく。
顔をあげられない。
「ごめん、焦りすぎた。
泣かせるつもりじゃなかったんだ。」
フワッと胸に引き寄せられ、体全部が包み込まれた。
そうして、
「好きなんだ…」
耳元でささやく声が、呪文のように沁みこんできた・・
「知らなかったんだ。昨日まで…」
拓也の吐息が耳をくすぐる。
「あいつ、蘇我とは生徒会で一緒にいるだけだと思ってた。
でも昨日、放課後に並んで帰るトコ見かけてさ。
それで友達に聞いて初めて知ったんだ、つき合ってるって。」
『う・・ん。』
「信じられなかった。」
あたしに向けられた、まっすぐな瞳。
「奴と手ぇつないだり、
その・・キスとかしてるのかって考えたら気が変になりそうで・・だからもう我慢できなかったんだ。」
そう言って、ギュッとあたしを抱きしめる。
「だって、キノウエさん、オレの事好きなんじゃないかな?って・・・
よく眼ぇ合ってたよね、
それに時々、笑ってくれてた。だから・・・」
『ええ?』
「オレ、やっと見つけたって思ってた。いつ告ろうかなって、ずっと迷ってたんだ。
それなのに、あんな奴に先越されるなんて、それで、焦っちゃって。」
『どうして、アタシなん・・・』
「オレ、勘違いしてた?」
『それは・・・』