溺れる。
「ダメだ、苦い…」
だけどそれすら叶わないみたいで、悔しくてちょっとだけ泣きそうになった。
「航ー?」
そんな情けない顔を隠すようにカウンターに顔を突っ伏していると、奥から店長を呼ぶ声がして。
「玲、」
店長の顔が一際優しくなった。
「あれ、ハルちゃん来てたの?おはよー」
「おはようございます、玲さん。開店前にすみません」
「いいよー。カフェやってんの航太郎だからあたし関係ないし」
あはは!っと笑う玲さんに「おい」と突っ込む店長はやっぱり優しく笑ってて。
微笑ましいなと思う分、少し…ほんの少し幸せそうな二人に嫉妬してしまった。お世話になってる二人にこんな気持ちを抱いてしまうなんて…こんな自分がつくづく嫌。
「玲、遅番?」
「そう」
「んじゃもうちょっと寝てろよ」
「大丈夫大丈夫。ほら、航もそろそろ開店準備しなきゃ」
「いいから寝てろよ馬鹿」
「はあ?馬鹿は航じゃんね。ねーハルちゃん」
そんな私の醜い気持ちを知らない玲さんは、いつもの綺麗な笑顔で話しかけてくれて、なんだかすごく申し訳なくて、少しでも嫉妬してしまったさっきの自分を殴り飛ばしたくなった。