溺れる。
直接聞いた訳じゃない。
誰かが言ってた訳でもない。
でも…好きな人だから。
ずっと見てきたから。
悲しいけれど、なんとなく分かってしまった。
「…ハルちゃん?」
そんなことを考えてると、自然に黙り込んじゃってて、玲さんの心配そうな顔を見て、ハッと我に返った。
「あ…」
「どうかした?」
「あ…いや大丈夫です」
「そう?」
ニコッと笑った玲さんは、裏で開店準備をしている店長のところに行った。
私も手伝わなきゃと床をモップ掛けしてても、やっぱり考えるのは、塚本さんのこと。
玲さんと店長は私のことをすごく優しく"ハル"と呼ぶ。
その呼び方は同じ"ハル"でも友達とは違う響きで、どちらかというと、両親に呼ばれるのに近い。
それに納得がいったのは、以前店長に「お前は俺と玲にとっちゃ妹みたいなもんだから」と言われたからだ。
そしてそれは塚本さんも例外ではない。
塚本さんの私を呼ぶ声は、店長や玲さんが呼ぶのと酷く似ていて。
キスする時だけ"晴"と特別だと勘違いしてしまいそうな言い方で、私を呼ぶ。
だからダメだと分かってても、いつも流されてしまう。