溺れる。
「ハルー」
「はい?」
「悪いけど、テーブル拭いてきて」
「わかりましたー」
店長に「ほら、」と投げられたダスターをキャッチし、「投げないで下さいよ!」と文句を言ってやろうと店長の方を見れば。
「……」
今まで見たことがない位愛おしそうな瞳でコーヒー豆を補充している玲さんを見ていた。
瞬間、なんだか見てはいけないものを見たような気分になり、バッと店長に背を向けた。店長もあんな顔するんだ…。いや、実際二人の時はずっとあんな感じなんだろうけど、それでも目の当りにしたのは初めてだったから、関係のない私が変に照れ臭くなる。
それと同時に、塚本さんが玲さんを見る目と同じ目だったことに気付いて、心臓が嫌にバクバク鳴って、冷や汗がたらりと額から流れるのがわかった。
背後で玲さんの「航、コーヒー。ブラックね」という声が聞こえて、目の前が真っ暗になった気がした。