溺れる。





壁に寄り掛かって私が靴を脱ぐのを黙って見ている塚本さんは私の問いには答えない。


鼓動が嫌に早まるのを感じながら、視線を少し上へずらせば。



「……」



壁に寄り掛かって、私をジッと見つめる塚本さん。

そんな塚本さんの表情は両腕を前で組んでいる体勢で煙草を銜えているから、顔に煙がかかるらしく、少し鬱陶しそうに目を細めている。



…てゆーか。
そんなに見つめられるとやりづらい。
ただでさえ脱ぎづらいショートブーツなのに、変に焦って手元が狂う。


やっと脱いだと思ったら、さっきと同じ体勢の塚本さんと目が合って、待たせてすみませんの意味を込めて、小さく頭を下げた。



「……腹減った」

「ん、今作ります」









塚本さんはこうしてたまにご飯を食べに家にやってくる。





「何食べたいですか?」

「あー…魚じゃなきゃなんでもいい」



こんな何気ない会話も塚本さんが家に来る度交わしていて。

塚本さんの答えがわかっているのに同じことを聞いてしまう私に気付いているくせに、そのことに対しては何も言わず、律儀に同じ答えを返す塚本さんはやっぱり大人。





「肉じゃがにしましたけど、いいですか?」

「おー、…ん、美味い」



そして小さく笑ってそう言われるだけで、嬉しくなる私はやっぱり子供だ。






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