溺れる。
「よかった…」
呟いてからハッとし、塚本さんを見れば。
「……」
今まで茶碗に向けられていた視線はご丁寧に私へと向けられていて、言葉と共に緩んだ頬を慌てて元に戻した。
「……晴」
若干の気まずさを感じながら、黙々と箸を進めていれば、心地いい低い声に乗せられ紡がれた私の名前。
「な、に…」
私は塚本さんに名前を呼ばれるのが苦手。
嫌でも反応してしまうし、
「ハル…こっちおいで」
反抗したくても、本能で従ってしまう。
それをわかってて、ニヤリと笑うこの男は本当に狡い。
箸をテーブルに置いて、ソファーの前に胡坐をかく塚本さんの隣にしゃがみ込めば。
「ぅ、わ…!」
腕をグッと強く引かれ、次の瞬間私は塚本さんの胸にダイブしていた。
上半身だけを預ける体制になっている私の腰を押さえ、引き寄せる塚本さんからは、煙草の苦い香りがして。
胸がキュッと痛み、思わず服の上から強く握りしめる。
「……晴、」
頭上から響く低く優しい声に泣きそうになりながら、どうかうるさく鳴り響く心臓の音に気付かれませんようにと祈り、目を閉じた。