なえる
「もしもし」

「あっ、あの……」

「あぁ」

 三田村の声が低くなった。

「お疲れ様です」

「うん、お疲れ様。どうした?」

 どうしたと聞かれて、みよしは悲しくなった。三田村は覚えていなかったようだ。

「あの、メール見ましたか?」

「メール?あぁ、あれか」

「はい」

 みよしの声が小さくなった。

「ごめんな。やっぱり今週は忙しいんだ」

「そうですか」

「返事しなくてごめん。仕事の流れを見てたんだ。俺だって会いたいからギリギリまで待ってみようと思っていたんだよ」

「そうだったんですか」

 俺も会いたいという言葉にみよしは反応して声が大きくなった。それに気付いたのか、三田村は少し笑ったように「そうだよ。当たり前だろ」と言い、「来週は必ず行くよ」と続けて電話を切った。

 みよしの機嫌はこうして直る。機嫌を良くさせるのも悪くさせるのもすべて三田村の言動だ。みよしは心底三田村に惚れていた。
< 10 / 31 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop