なえる
「うちの会話は子供のことしか話さないよ」

 もしそれが本当だとしたら三田村の妻も寂しい女だ。

 ある日の水曜日。その日もいつもと同じく三田村に抱かれ、眠る三田村の横顔をみつめていた。

 時計を見ると午後十一時を過ぎていた。もちろん三田村は泊まるはずがない。いつも、十一時半から0時までには家を出るのがお決まりだった。

 三田村の体をゆすり、時間がきますと声をかけると、目を覚ました三田村がみよしの胸に手をのばし、二度目の愛撫を始めた。

「時間、平気なんですか」

「うん」

 三田村がみよしの手を自分の固くなった場所へ連れていく。

「奥さん、大丈夫なんですか」

 三田村の動きが止まり、みよしの手の中にある固いものが萎えていくのがわかった。

「こんな時にそんなこと言ったら駄目だよ」

 妻というものは男のものを萎えさせるほどの重たい存在なのかとみよしは落胆したものだ。みよしだって女だ。結婚に憧れがある。

 それなのになんて寂しいものなのか。

 三田村を助けてあげたい。そんなものとは別れてしまえばいいのに。けれど、別れられない足枷が三田村にはある。

 三田村をパパ、パパと呼んで離れない子供だ。

 テレビ画面から子供の声が聞こえ、みよしは我に返った。週末はこんな風に三田村を想って過ごしている。

 三田村もきっと私のことを……。

 まだ聞こえてくる子供の笑い声が耳に絡み付いてくる。

 みよしはテレビのリモコンの電源を力強く押し、テレビを消した。
 
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