なえる
 みよしの住むA町からF町まで電車で二十分ほどの距離だった。

 今までF町には電車で通り過ぎるくらいで降りたことはなかった。駅を出ると大型のデパートはあるが、人がそう多くなくA町とは何ら変わらないように見えた。

 同僚から聞いた話しによると駅から離れているということだったので、バスで行ってみることにした。下車するバス停や路線は昨夜のうちに調べておいたのでわかっている。

 バスに揺られながら見える風景に一家団欒の絵が似合う、ふと無意識にそんなことを思った。

 みよしは三田村と子供とで過ごす週末を想像した。三田村と一緒になれたらいいのに。

 人目を気にせず、堂々と愛し合っているということを周りに見せつけたい。そして、今、三田村の妻として生きる女に知らせてやりたい。

 バスのアナウンスがみよしの降りるバス停の名を告げた。みよしがボタンを押すと高らかなチャイムがバスの中に響き渡った。
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