なえる
　子供の母親らしい数人の女性が輪を作っているのが見えた。三田村の妻の顔を知らないのでその輪の中にいるのかどうかわからない。

　ただ、公園内に男性の姿がないので三田村はいないようだった。

　みよしは公園内のベンチに座り、カバンから一冊の本を取り出した。とっくに読み終えているその本は怪しまれないための小道具の一つだ。天気のいい日に読書をしている女。誰も不審には思わないだろう。

　本に目を落とし読んでいる素振りをしながら、みよしは聞き耳を立てた。
母親たちの笑い声が聞こえ、その声の中に「三田村さん」と呼んだのをみよしは聞き逃さなかった。

「また服を汚しているわ。毎日洗濯ばかりよ」

「子供の成長って本当に早いわよねぇ」

　母親たちの会話はつまらない内容でみよしをイライラさせた。もう一度名前を呼んでほしい。三田村の妻の顔が見たい。
< 17 / 31 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop