なえる
「パパ、トイレに行きたい」

 みよしは思わず声のした後ろを振り向いた。

 青いリュックを抱えた男の子とその父親が座っている。男の子は小学生で三四年生といったところに見えた。

「次の駅だからそこまで我慢できる?」

「うーん」男の子がどこか不満そうな顔をしている。

 我慢すればいいのに。みよしは眉間に皺を寄せた。

 三田村には男の子と女の子の二人の子供がいる。五才と三才だと前に聞いたことがあった。

「二人ともパパ、パパって抱きついてくるんだよ」

 時折三田村のこうした無神経さに腹の立つときがある。みよしは、主任と呼ばれている三田村しか知らない。

「パパまだ?」

 男の子の甘えた声が聞こえた。みよしは耳を塞ぐかわりに目をつむって、ひとつ深呼吸をした。
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