雨降り少女
「これ使う?」



唐突に静寂が崩され、水色の色彩が視界を遮った。
ゆっくりと、見上げた先には人懐っこそうな青年の笑顔がのぞいていた。


ひさしぶりに見た笑顔だった。




『雨』の写真を撮りたい。




彼はそういって、彼の手には小さな子供用のサイズの傘を、私に握らせて軒先からつれだした。






手が…あったかかった。







彼は、何度も雨の中の私の写真を撮っては、喜んで………





笑った。





『晴れ』という言葉も現象も、彼の写真から伝わった。
何もかもが、彼の手の中の黒い箱から伝わってきた。
灰色の世界に、彼の写真が色を運んだ。
自分の存在が喜んでもらえた喜び。






彼が笑ってくれると、胸があったかくなって
この気持ちが“うれしい”だと教えてくれたのも彼だった。


私は、笑うことを覚えた。

私が笑うと、雨は霧雨になり、勢いを弱めた。

彼は、霧雨の中濡れることもかまわずに、水色の色彩と私をフレームに収めた。

私はうれしくなって、更に笑った。



――――空が、晴れた。









生まれて初めて見る、真っ青な空に私は目を奪われた。
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