雨降り少女
生まれて初めて見る、真っ青な空に私は目を奪われた。


彼は…

彼は……


――――壊れた。


「僕は雨の写真が取りたかったんだ!!!」


そう叫んで、彼は私を見ようとしなくなった。

私が呼んでも、彼の目線は私の目線とは違う何かを見ていた。
『雨』が無い私に、彼は興味を失った。


私は、悲しくなった。

空は、曇った。

悲しい気持ちが空を曇らせたなら…
もっと、悲しめば雨が降って…
彼はもう一度私を必要としてくれるだろうか…


私は、悲しもうと思った。


私にとって一番悲しいことは………


カナシイコトハ……


それはきっと……





私は、曇り空を見上げたまま…けして、私を見ようとしない瞳の横に立った。

手にした冷たい輝きを、ゆっくりと彼のおなかに突き入れた。

柔らかな肉の感触と、手に伝わるぬめり。
ゆっくりと動かす。
彼は、空を見上げたまま動かなかった。





カナシイコトハ…





更に動かす。
鉄の匂い、錆の匂い。
滑る、手のひら。





カナシイコトハ…




彼が、崩れ落ちた。
いつも、私より高い位置にある目は、いまや四つんばいで私よりも低い位置にいた。






けれども、その瞳には、覗き込む私など映ってはいなかった。







カナシイコトハ…





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