幸せ家族計画


「……アヤ」


無意識に唇を噛んでいたのか、口の中に血の味が広がった。
お陰で少し正気を取り戻して、俺は部屋の中を捜し始めた。

室内にはあまり変化が無いように思える。

けれど、棚代わりに使っている押し入れのカラーボックスの手前に、ファイルが一つ転がっていた。
綾乃が綺麗にまとめてくれたやつだ。

一枚一枚、届いた日付順にまとめられたハガキのファイルは、どれが無くなっているかも一目瞭然だった。


「10月……」


多分、英治のところの結婚通知も兼ねた転居通知だと思う。
確かこの頃だった。

って事は紗彩のところに行ったってことか?

どうして?

確かにあの旅行の時、紗彩の事を気にしてはいたはずだけど、
今や紗彩は英治の妻だ。

今更、何を話そうっていうんだ?


分からないまま落ち着かずに、部屋の中をぐるぐる回る。
そのうちにゴミ箱を蹴り倒してしまった。

足元に広がるゴミ。
慌てて戻そうとすると、"妊娠検査薬"と書かれている小さな箱が見えた。

拾い上げると、その箱の中身は空だ。


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