幸せ家族計画
「ああー、すいません。こら、タケシ!」
タケシと呼ばれた子はしばらく俺の肩から降りなかったが、母親と思われる人の激しい怒りに、渋々降りた。
「すみません」
「いいえ」
「スーツ汚してしまいましたね。ちょっと失礼します」
彼女はパンパンと背中をはたいてくれる。
きっと靴跡でもついてるんだろう。
しかしその手つきが、どことなく鈍くなっていく。
最後には、背中の一点で止まってしまう。
「あの? ええと」
「あ! いえ。息子が失礼しました。ごめんなさいね」
我に返ったように手を離す奥さん。
何だかちょっとびっくりしたぞ。
あまりに人が寄ってくるのに辟易して、早く教室に行ってしまおうとサユを促す。
サユは頷いて、
「おとうさん、行こう!」
と大きな声を出す。
するとなんとなく人が周りから遠ざかって道ができた。
凄い。
サユは案外頼もしいな。