幸せ家族計画


「そんな事言ったら、束縛してるみたいじゃないか。
俺は綾乃に重いって思われたくないし、縛るのは可哀想だ」


そう。いつもそんな結論にいってしまう。

結局俺の本音は、
綾乃を自分の傍に置いておいて、自分だけを見ていて欲しいって事なんだよな。

でもそれを口にしてしまったら、彼女は俺に対してどう思うのか。
それを考えると怖くて動けなくなる。


「……そんな事無いと思います」


ポツリと墨田さんが口に出した。

ケーキを食べていた手は、止まっている。
真剣に俺の方を向いて、訴えかけるように言う。


「私だったら、きっと嬉しいです。好きな人に、そんな風に言われたら……」

「そ、そうかな」

「大切過ぎて、大事なことが言えないことってあります。
近くに居るほど、タイミングを逃してしまうこともあります。
でも伝えないと、いつの間にか居なくなってしまうんです。

だから、きっと奥様は言ってもらえたら嬉しいと思います」


自分自身にも言い聞かせるように心をこめて言う彼女に、何だか心が動かされる。

もしかしたら彼女も、そんな風にして誰かを失ったことがあるんだろうか。

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