幸せ家族計画


「大丈夫?」


頭の上から聞こえた声に、ポンと考えが飛んでいった。
顔をあげると、50代くらいの女の人が買い物袋を提げたまま私を見てい
る。

この人知ってる。
アパートの1階に住んでる人だ。


「あ……の」

「ああ、2階の妊婦さんだ。大丈夫? まさか陣痛?」

「はい。た、多分」

「なのに何やってるの。こんな寒空で」

「タクシーを待ってるんです。病院に行こうかと思って」

「は? 旦那さんは?」

「まだ連絡してないんです。仕事中なので」

「何やってるんだい。いいから、ちょっとこっちおいで」


その人は私のカバンを掴むと、背中を支えるようにして立たせてくれた。

その拍子に首筋に空気が入り込んできて、
冷や汗をかいていた部分からぞくぞくと寒さが伝わってきた。


「家からなら、タクシーが止まればすぐ分かるし、すぐ出れるから」


そう言って、連れてきてくれたのは階段の脇にある1階の角部屋だ。
表札には『作田(さくた)』と書かれてる。

< 320 / 419 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop