幸せ家族計画
それからどれくらい経っただろう。
大きな物音と共に、汗だくの達雄が入ってくる。
「ちょっと、病院なんだから静かにしてください!」
看護師さんにまで怒られて、彼は汗を拭きながら頭を下げる。
「アヤ、大丈夫か」
「達雄……12月なのに何で汗かいてるの」
こめかみの辺りから伝って行く液体は一筋どころじゃない。
早く拭かないと風邪をひいちゃう。
痛みを堪えて、自分用に置いておいたタオルを手渡す。
「拭いて」
「え、どこを拭けばいい?」
「私じゃなくて。達雄の汗を拭いて」
「ああ、俺か」
ようやく自分の汗に思い至ったらしく、拭いてみてその濡れ具合に驚いている。
「あはは、……いたた……」
「陣痛なんだな? どこが痛い? 腰をさするといいんだっけか」
気を取り直して、私の腰をさすってくれる。
痛みは変わらないはずなのに、彼の手がそこにあると思うだけで、何だか和らぐような気がする。