幸せ家族計画
「俺、すごく不安でさ。
おふくろはすげー痛がってるし、周りも皆忙しそうで。
だけど、俺だけが子供で何もできなくて」
「うん」
「どうしたらいいんだろうってしょぼくれてたら、親父が駆け込んできたんだ。
いつもにこにこ笑ってる人が、この時ばかりは凄い険しい形相でさ。
俺、親父の顔見て泣いちまった」
「達雄が?」
「ああ、ビビったんだよな。それとも安心したのかな。
分かんないけど、あんな風にワンワン泣いたなのは久しぶりだった。
腹痛いはずのおふくろまで俺の事心配してさ。
落ち着いてからやたらに恥ずかしかった。
……でも、さっきの自分がそれとかぶったな。
陣痛って聞いた途端に、もう訳も分からず飛び出してきた。
冷静でなんか、いられないもんなんだな」
「会社、ちゃんと挨拶してきたの?」
「あー、一応。『妻が出産なんです』って叫んではきたけど。
英治が上手くやっててくれてると思う。『早く行け』って言ってくれたから」
「そっか。いつもお世話になってるね」
「俺がお世話してるときだってある。……多分」
心もとなげに言う彼がとても愛おしい。
聞きたいと思っていた自分が生まれた時の話を、まさか彼の口から聞くことが出来るなんて思わなかった。