幸せ家族計画
耳元から聞こえるやたらに浮かれた声は、どうにも要領を得ない。
『だからさ、手続きとかどうすりゃいいんだっけ』
「……そんなの人事部に聞けよ。俺もわかんねーよ」
現在夜の9時。
珍しく残業中の俺。
そして、電話から聞こえるのは、"父親"というものになった達雄の声。
綾乃ちゃんが出産したのは昨日の事だ。
子育てに慣れない妻の為に仕事を休むのは別にいい。
その為の休暇制度だってある。
だけど、こうして訳のわからない電話をかけてくるのはどうなんだ。
しかも病院の面会時間が終わったと思われるこんな時間から。
「あのね。俺も忙しいんだよ。
今日は昼間セミナー出てたから、その分仕事が伸びてる訳。
頼むからそういうのは昼間、人事のおねーちゃんが居る時間に会社宛にかけてこい。
もしくは直属の上司に頼めよ。俺は知らん」
『分かったよ。なぁ、それにしても赤ん坊ってさ』
「切るぞ。まだ仕事中だ」
『あ、英治』
「ハイハイ、退院した頃、お祝い持ってくよ」
そう言って電話をぶった切る。
くそう。
今日はサユが寝る前には帰れそうにない。
今は紗彩が産休に入ったから、サユが寂しがるのを心配することは無いけれど、なんと言おうか俺が寂しい。