幸せ家族計画
「最後に麻酔を追加したので、今は寝てらっしゃいます。一時間くらいは目覚めないかも知れません」
そのまま慌ただしく病室へと連れて行かれる。
すぐ後を追うように両親たちは歩き出したが、俺は動けなかった。
「……お父さん?」
サユの、驚いたような声が聞こえる。
自分でもビックリだよ。
俺が、泣くなんて。
「お父さん、泣かないで」
それでも、止まることなく目尻から涙がこぼれ落ちる。
恥ずかしくて顔を右手でおさえるけど、膝に落ちる滴で泣いているのはすぐにばれてしまうだろう。
「……良かった」
心底から吐き出された言葉は、サユの耳くらいにしか届かないほど小さな声だ。
紗彩が無事で、
赤ん坊が無事で、
本当に良かった。
どんな母親も、死ぬ気で産むんだ。
そう思ったら、どこかにずっと残っていた自分の母親への不信は、綺麗に溶けて無くなった。
産んでくれただけでも十分じゃないか。
今なら、そう思える。