幸せ家族計画

『それまで、子育てに必死だった。でもある日、ひょっこり時間が空いてふと我に返ったときに、なんだか自分に価値がなくなってように思えてしまったの。ちょうど英治はイヤイヤ期に入った頃だったから、苛立ってたってのもあるかしら。
それでも、自分がノイローゼになってるなんて自覚はなかった。気づいたのは、英治を殴って泣かせてしまった時よ』


殴られたことなんかあったかな。
俺の記憶にはもうないけれど。


『あの時、多分英治のことを人形みたいに思ってたのね。なぜ私の言うことを聞かないの。なぜ泣くの。私のものなのにって。
そんな気持ちで接してたんだもの。英治が反抗して当然だったんだわ。……ごめんなさいね』

「……俺は、終わったことは気にしてないよ。殴られたなんてのも覚えてない」

『誰かに相談すれば良かったのかもしれないけど。まるで虐待してるような自分を知られるのが怖くて、誰にも言えなかった。
そんなときに彼に出会って。……私は逃げたのよ。あなたも、夫も皆捨てて』

「ごめん。母さん。落ち込ませたい訳じゃないんだ」

『ううん。それを隠してあなたと和解したいなんていうのも、思えば勝手なことだったんだわ』

「別にもう気にしてない。それは本当。それより参考になったよ。大丈夫そうだからって任せきりにしてるのはよくなさそうだな」

『英治……』


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