幸せ家族計画


 出先からの帰り。時刻は19時半。

いつもより遅くなったなと、足早に駅へと向かっていた時、携帯電話が高らかに鳴り響いた。

着信音はクラッシックの名曲、ビバルディの『春』。

教科書にも載るこの曲は街ゆく人の意識までもかすめ取るらしく、人ごみの中だと視線を感じて若干恥ずかしい。

早く帰りたいのにな、と舌打ちをして立ち止まる。


画面には、【西崎達雄】の名前があった。

何だ達雄か。
アイツの定時後の電話は大概くだらない相談なんだよな。

思わず放っておこうかとも思ったが、目の前を達雄の情けない顔がちらついて離れない。

いかんな。
すっかり奴には甘くなってる。


「はい。達雄、どうした?」

『英治、仕事終わったか? ちょっと話があるんだけど、出てこれないか?』

「話? なんだ?」

『会ってから話すよ。いつものとこ。『Hellebores』に20時な。俺も今から行くから』


俺の返事を聞く前に電話は切れる。

なんだろう。
義理の妹と結婚してからは、すっかり家庭人間になって飲みになんか誘っても出て来なかったくせに。

珍しい親友の誘いに、何だか胸騒ぎがする。
ここはやはり話を聞いてやらなきゃいけないか。

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