幸せ家族計画
「そう言えば……」
黙って考え込む達雄。
何考えてるんだろう。
最後の生理はいつかとか。
避妊せずにヤッちゃったのはいつかとか、そんなんかな。
呑気に達雄の次の言葉を待ちながら、グラスを傾けた。
ステージでは、美しいピアニストがアップテンポの曲を流しだす。
いつの間にか、オーナーもステージのギター演奏の方に行っている。
いい曲だな。
意識が音楽の方を向いてきたその時、ポツリと達雄が呟いた。
「……一人で悩んでたなんて、辛かっただろうに」
ステージに向けていた視線を隣の達雄に戻すと、
達雄は肩に力を入れたまま、苦しそうに瞳を歪めて、拳を強く握っている。
その姿に、相川さんも俺も、驚きを隠せなかった。
そうだ。
そうだったな。
達雄はこういう男だった。
煮え切らなくてはっきりしない。
どうしようもないヘタレだけど。
誰よりも彼女の事を大切にして、
彼女の気持ちを優先するんだった。
今、お前の頭の中には、自分の不安なんて何一つなくて
初めての妊娠に戸惑う妻の姿しかないんだろうな。