魔天戦史
「頼む……これからの戦いは更に過酷になる……戦死者も出るだろう……」
緋凰の独白の様な囁きを高城博士は噛み締める様に聞いていた。
「………子供達が死ぬこともあるかも知れない……それでも尚、我々は戦い続けるだろう………全ては遥か先の未来のためだ…」
「その未来のために、今を生きる子供達の命を捧げる……まるで、神へと捧げる子羊の様に……」
「………我々はさしずめ、子羊を導く羊飼いか………」
「それも、自ら子羊を谷底に放り込む羊飼いだがな……そんな羊飼いに、好き好んで付いて来る子羊など…哀れなだけだ……」
高城博士はそう吐き捨てる様に最後に呟いて部屋から出て行こうとした。
「………あるいは、『七つ目の子羊』………かも知れんぞ?」
緋凰のその言葉に高城博士は思わず足を止めた。
「……救世主を語るか………それこそ愚かなことだ……」
「人は人に求められて戦士となり、戦士は時代に求められて英雄となる………いつの時代も、英雄と人殺しは紙一重だ。ただ一つ、両者を隔てるものがあるとすれば………それは、求められているかどうか、という一点に他ならない。例え一人でも求める人がいれば、その者はその一人にとっての英雄となるのだ……英雄となる者を導く羊飼い………実に光栄なことじゃないか」
「………英雄を導く羊飼い、か……英雄となるか、悪魔となるか……結局は、神の手によって賽の目は決まってしまう……」
「ならば、最期まで足掻こうじゃないか。嵐の先にこそ、青い鳥は飛び立つのだからな……」
緋凰は研究所の入口まで高城博士と歩き、そこで別れた。
一人、過去との因縁を断ち切るために……