魔天戦史
「…とてもあれが勇翔だとは思えんが……」
「やはり、あぁなってしまいましたか……」
「崇史……来ていたか……何か知ってるのか?」
二人に声をかけたのは、崇史だった。
「勇翔君は、入学した頃に毎晩同じ夢を見ると言っていました」
「夢……?」
「辺り一面が火の海になっていて、その中に自分と同じ顔の人間が立っているそうです……」
「……まさに、今の状況にピッタリだな………だが、あれはなんだ?勇翔の契約した聖霊は、どちらもあんな力は無いはずだが……」
「……紅蓮の魔女………」
「なに……?」
憲蔵はユリスの発した言葉に耳を疑った。
「それは……」
「覚えているだろう?十六年前の、中東で起こった大虐殺を…」
「……死者四百万人に上る、あの事件か……」
「その時に捕獲された聖霊の名を覚えているか?」
「……紅蓮の魔女、ランダ……虐殺を好む邪悪な魔女……まさか、勇翔のあれは……」
「捕獲されたランダがその後どうなったのか知る人間はいなかった。いくら調べても、痕跡一つ見つけられなかった。そのランダが、勇翔の中に封印されていたとしたら……」
「…そんなことが……だが、あれはそれ以外では説明出来ないな……」
そんなことを話していると、勇翔が再び仮面の男に襲いかかった。
仮面の男もさるものだが、勇翔はそれに追い付いていた。仮面の男が切り掛かっても、それを蒼天でいなして弾き、そこに炎を叩き込む。
「……なんだ…あの戦い方は……」
「流石は、紅蓮の魔女といったところか…だが……」
「あぁ……まるで、泣いている様だ………」
雄叫びを上げながら闘う勇翔は、まるで火の粉の涙を流している様だった。