魔天戦史
公王
混濁する意識の中で、遠くから声が聞こえた。
「……では、お……いしま……では………」
最後にドアが閉まる音で、勇翔は目を開けた。
「……ここは…貴方は……?」
勇翔が目線を横に移すと、見知らぬ男性が座って勇翔を見ていた。だが、不思議と警戒心は起こらなかった。
「……やぁ、目が覚めたかい?君は半日近く眠っていたんだよ。師紀元帥達も心配していたよ」
「あの、ここは……」
「ここは、統合軍の本部ビルの医務室だよ」
「……本部ビル……」
「……まだ少し休んでいた方が良さそうだね。君は、もう少し眠っているといい。私は、師紀元帥達に連絡して来よう」
男性がそう言いながら立ち上がって部屋から出ようとした。だが、その背中に勇翔が声をかけた。
「あ、あの……」
「何かな?」
「貴方は、一体……」
「おぉ、そうか。まだ自己紹介していなかったね」
男性は再び椅子に座った。
「私は、フォーラム公国公王、ランゼル・ジ・フォーラムだよ、坂原勇翔君」
勇翔は男性の自己紹介に心臓が飛び出るかと思った。
「フ、フォーラム公国の、公王様……!?」
「あぁ、そう身構えることは無い。私も、あまりそういうのは好きじゃないのでね」
「は、はぁ……でも、何で……」
「大元帥と話があってね。それで来たんだが、そこに悪魔の大群の襲撃を受けてしまってね。とても会談どころでは無くなってしまったよ」
苦笑しながらはにかむその顔は、穏やかそのものだった。これが、警戒心を抱かなかった理由かも知れない。