魔天戦史
「………バカな……」
アイザックは、目の前の存在に驚愕した。
腰まで伸びた緋色の髪に、太陽の様な黄金色の瞳と、赤銅色の肌に手足の爪は鋭く変質している。そして、全身に揺らめく陽炎の様霊気を纏っている。
それは、勇翔が変身した姿だった。
「………魔神…だと……ッ!?」
「ヴォォォォッ!!!」
勇翔が放った咆哮は、強烈な霊気の嵐となって、周囲に吹き荒れた。その咆哮は、海面を揺さぶり、雲を吹き飛ばした。
「勇翔……な、何が……」
「……やはり…魔神となってしまったか…」
「!?……貴方…」
勇翔を見つめる悠里の前に、仮面の男が現われた。だが、剣は鞘に納めてある。
「あれは………何なの?」
「あれは………魔神化と呼ばれるものだ」
「魔神化……魔人化とは違うの?」
「魔人化は、人の領域を超越し、魔へと至る技術……極めれば、その身を悪魔に変えることが出来る……だが、魔神化は、それとは根本的に異質なものだ…魔神……それは、どの世界の神話や宗教にも存在しない、無貌の存在…異界を彷徨い、ただ殺戮の限りを尽くす………極めて危険な存在だ」
「殺戮……それじゃあ、勇翔は……」
「…あれは、陽炎の魔神、と呼ばれる魔神だろうな……陽炎の衣を纏い、焔の剣を振るう…戦闘力は、魔神の中でも極めて高い域にある……最強の魔神の一柱だ…」
「…勇翔………」
二人が見つめる先では、勇翔がアイザックと戦っていた。しかし、勇翔は晶を抱えているとはいえ、アイザックを翻弄していた。
「……アイザックでも、分が悪いか……仕方ないな……」
仮面の男が剣を抜いてアイザックのもとに飛んだ。