魔天戦史
それを聞いてパラケルススの顔からみるみる血の気が引いて行く。
「…そんな…まさか…」
「…光無き世界など有り得ない。そして私は光を媒体にして全てを見ることが出来る…間違ない。」

「…アレイスター・クロウリー…」

「…彼は今、その勢力『金色の朝日』の指導者となっている。世界各地から有能な魔術師を集めて育成し、強力な私兵として操っている。」

「…それで、何をしろと…」

「私は他の十賢にも会うつもりだ。貴方は、先ずは国連に戻った方がいい。」

「…この老骨に、まだ人殺しをしろと…そうおっしゃるのか…」

「…貴方には力がある。力無き者を守るのも、力ある者の務めだ。貴方もそれはお分かりのはずだが…」

「……足る者は足らざる者を守り、足らざる者は足る者を支えるべし…原初の精霊の遺した遺言ですな…儂は、目を逸らし過ぎた様だ…」

「…この世に生きる者ならば、誰しも弱き心を持つもの…それはこの世に生きる万物全ての真理…ましてや貴方はかつては人間だったのだから、当然というもの…」

「…儂は、まだ人間なのでしょうか…それとも、もう…」

「…人か、化け物か…それは心の持ち用だろう。」

「…そうですな…儂は、まだ自分の心にすら打ち勝てない…醜い生き物ですな…人という生き物は…」

「…だからこそ、美しいのだ…人という生き物は…」

「…そうですな…」

二人の間には、静かな沈黙が流れた。しかし決して息苦しい沈黙では無く、安らぎのある沈黙だった。
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