魔天戦史
「…ここで立ち話もなんじゃな。儂の部屋においで。」

「は、はい!」

二人は中庭から拾蔵の部屋に移動した。

「…まぁ、座りなさい。」

「は、はい…失礼します。」

勇翔は座布団に座った。

「君は、儂のことは京介か憲蔵から何か聞いているかな?」

「えと、猫アレルギーじゃないってことぐらいなら…」

「はは、まぁ確かに儂と京介は猫アレルギーではないがな。なら儂から話そうかの…」

吸っていた煙管を口から話して煙を吐いた。
「…儂は、かつては炎皇と呼ばれた国連統合軍の元帥じゃった…今は、もう退役したがのう。」

「あなたが…あの、炎皇…!?じ、じゃあ、聖霊は…」

「…良かろう…」

拾蔵は煙管を置いて右手を顔の前で握った。
「…来い、朱雀!」

すると右手が朱く輝き、部屋の中に火の粉が舞った。拾蔵の後ろに炎の渦が発生し、その中から長い首と尾を持つ朱い大鳥が現われた。

「これが、朱雀…!!」

「四神の一体である朱雀は南方を守護し、夏を象徴する聖獣じゃ。そのため極めて強力な炎の霊力の塊とも呼べる。」

拾蔵の言う通り、朱雀は極めて濃厚な霊気の塊のような感じがした。部屋の中に舞う火の粉の一つ一つからも霊気が感じられる。

「凄い…!」

「これは現出させているだけだが、戦闘になれば鬼神の如く戦ってくれる…頼もしい相棒じゃよ。」

拾蔵は朱雀の首を撫でた。朱雀は気持ち良さそうだ。

「…信頼なさってるんですね…」

「君もそうでは無いのかな?」

「…え…」

「君の中の聖霊からは、強い忠誠心を感じるが…君は自分の聖霊を信頼していないのかな?」

「…」

「そんな人間に従う聖霊なぞおらんよ。君は、もっと自分に自信を持ちなさい。」

「…はい…」

拾蔵の言葉が心の疲れを癒していく。この時だけは、勇翔は安らかな気持ちでいられた。
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