一緒に暮らそう
「中山さんには恋人はいたんですか」
紗恵がたずねる。
「おったで。むかーし昔な。何年も付きおうてた女がいたわ」
「結婚しようとは思わなかったんですか」
「せやなぁ。彼女はほんまに好いた女やったさかい、結婚かてそらしたかったけどタイミングが合わへんかってん。気持ちのすれ違いがあって、彼女とは結局別れてもうたんや」
「すれ違い?」
「すれ違いゆうか、僕に意気地がなかっただけやな。僕はバーのピアノ弾きやった。言うたら水商売や。向こうは保育園の保母さんで、彼女の父親は中学校の校長をしてはった。固い家の娘や。結婚したいと相手の親に言うたら、案の定反対されてん」
「家族の反対を押し切ってまで結婚しなかったんですね」
「そうや。彼女のことは確かに好きやったけど、僕にはあんまり男としての自信が無かってん。僕の仕事は安定してへんかったし、結局、僕が身を引くような形で別れたんや。僕は彼女を泣かせたことになるなぁ。それから、彼女は会社員と結婚したと風の噂で聞いたわ」
「中山さんにそんな辛い過去があったんですね」
「今となっては昔話や」
中山さんは遠い目をしている。
「彼女と結婚しなかったこと、後悔してますか」
「せやなぁ。後悔してへん言うたら嘘になるなぁ」
「じゃあ、中山さんは今でもその彼女のことを思っていらっしゃるんですね?」
紗恵がたずねると、彼は寂しそうな目を彼女に向け、それからかすかに笑った。
紗恵がたずねる。
「おったで。むかーし昔な。何年も付きおうてた女がいたわ」
「結婚しようとは思わなかったんですか」
「せやなぁ。彼女はほんまに好いた女やったさかい、結婚かてそらしたかったけどタイミングが合わへんかってん。気持ちのすれ違いがあって、彼女とは結局別れてもうたんや」
「すれ違い?」
「すれ違いゆうか、僕に意気地がなかっただけやな。僕はバーのピアノ弾きやった。言うたら水商売や。向こうは保育園の保母さんで、彼女の父親は中学校の校長をしてはった。固い家の娘や。結婚したいと相手の親に言うたら、案の定反対されてん」
「家族の反対を押し切ってまで結婚しなかったんですね」
「そうや。彼女のことは確かに好きやったけど、僕にはあんまり男としての自信が無かってん。僕の仕事は安定してへんかったし、結局、僕が身を引くような形で別れたんや。僕は彼女を泣かせたことになるなぁ。それから、彼女は会社員と結婚したと風の噂で聞いたわ」
「中山さんにそんな辛い過去があったんですね」
「今となっては昔話や」
中山さんは遠い目をしている。
「彼女と結婚しなかったこと、後悔してますか」
「せやなぁ。後悔してへん言うたら嘘になるなぁ」
「じゃあ、中山さんは今でもその彼女のことを思っていらっしゃるんですね?」
紗恵がたずねると、彼は寂しそうな目を彼女に向け、それからかすかに笑った。