一緒に暮らそう
「紗恵ちゃんはその彼と結婚したいんか」
「そりゃ、いつかはそうなったらいいなとは思いますけど、まあ、まだ付き合い始めたばかりだし」
「ほな、今が一番楽しい時やないか」
「ええ、まあ。でも、私、昔の中山さんといっしょなんです。自分にあまり自信がなくって。彼は一流大学を出て一流企業に勤める研究員なんです。反対にこの私ときたら、高卒でこのとおり何の取り柄も無い女です」
「卑屈なこと言うたらあかん。あんたにはええとこようさんあるで。僕はあんたの作った料理が好きや。あんたの控えめな人柄も好きや。あんたの彼かてきっとそう思ってはるで。学歴とか仕事とか、そんなんほんまに好きになったら関係あらへん、と今の僕は思てんねん。ちっとばかし気づくのが遅なったけどな。あんたまでそんなん気にしとったら、こないな寂しい年寄りになってまうで」


 それから中山さんは配膳作業の終わった紗恵をホームの談話ルームへ誘った。
 そこには一台の古いピアノが置かれていた。
 彼はその調律に文句を言いながらも、得意の曲を彼女に聴かせてくれた。
 彼が弾いたのは、エリック・サティの「君が欲しい」だった。
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